最低賃金56円上げ、人件費増を時給・時間・価格に分けて試算
2026年度の最低賃金は全国加重平均で56円上がった。56円の不足が月500時間分なら、増える基本賃金は月2万8000円になる。この増加額を、時給の不足分、既存スタッフとの差、勤務時間、価格に分けて試算し、どこで吸収するか決める方法を示す。

2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で56円上がって1,177円になった(厚生労働省・令和8年度地域別最低賃金全国一覧)。飲食店ドットコムが2026年9月10〜14日に実施した調査では、回答した飲食店経営者235人の52.4%が経営に影響があると答えた。継続的な賃上げへの対策を実施・検討している経営者の84.8%は、値上げを挙げる。たとえば56円の不足が対象者の合計で月500時間分あれば、増える基本賃金は月2万8000円で、税抜50円の値上げなら毎月560食を売ってようやく埋まる計算になる。値上げだけに頼ると、販売数が減った月に埋まらない分が残る。増加額を「時給の不足分」「既存スタッフとの差」「勤務時間」「価格」に分けて試算すれば、どこで吸収するかを比べて選べる。
11月以降発効の10府県は、発効日以降の労働から新しい額
11月以降に発効する10府県の店は、発効日で給与を区切る。厚生労働省・使用者と最低賃金制度によると、改定後の最低賃金は発効日から適用され、給与の計算期間の途中に発効日が来ても、発効後の労働には新しい額が要る。
労働政策研究・研修機構によると、改定額は10月1日から12月2日にかけて順次発効し、10月中の発効は37都道府県だった。残る10府県は、それぞれの発効日以降の労働から新しい額になる。厚生労働省・令和8年度地域別最低賃金全国一覧によると、山梨・徳島・愛媛・大分は11月1日、長崎は11月2日、佐賀は11月15日、京都は11月16日、岩手・熊本は12月1日、沖縄は12月2日に発効する。給与の計算期間の途中に発効日が来る店(月末締めなら長崎・佐賀・京都・沖縄)は、発効日の前日までを旧額、発効日以降を新しい額で計算する。締め日が月末でない店は、自店の計算期間に発効日が入るかで確かめる。
色:列の中で数字が大きいほど濃い青
| 府県 | 改定額(円) | 引上げ額(円) | 発効日 |
|---|---|---|---|
| 山梨 | 1,113 | 61 | 11月1日 |
| 徳島 | 1,103 | 57 | 11月1日 |
| 愛媛 | 1,093 | 60 | 11月1日 |
| 大分 | 1,096 | 61 | 11月1日 |
| 長崎 | 1,087 | 56 | 11月2日 |
| 佐賀 | 1,095 | 65 | 11月15日 |
| 京都 | 1,180 | 58 | 11月16日 |
| 岩手 | 1,090 | 59 | 12月1日 |
| 熊本 | 1,092 | 58 | 12月1日 |
| 沖縄 | 1,086 | 63 | 12月2日 |
増える人件費は「不足分×時間」で月額にする
全国加重平均と同じ56円の不足が対象者の合計で月500時間分あると仮定すると、増える基本賃金は月2万8000円、税抜月商300万円の店なら売上の約0.9%になる。計算は、最低賃金を下回る人ごとの時間額の差に月の労働時間を掛けて積み上げる(56円×500時間=2万8000円、2万8000円÷300万円≒0.9%)。時間額を比べるときは、通勤手当や賞与、割増賃金などを除いた賃金で比べる(厚生労働省・使用者と最低賃金制度)。J-Net21・人員計画の書き方は、事業主負担の社会保険料や残業も人件費の計画に含めるとしている。2万8000円は基本賃金だけの増加であり、資金繰りの見込みには保険料と割増賃金の増加を別に足す。
既存スタッフとの差をどこまで保つかで増加額が変わる
飲食店ドットコムの調査では、2026年度の改定前の最も低い時給が最低賃金と同額の店が28.9%あった。改定後も「新しい最低賃金と同額にする予定」が31.1%で最も多い。最低賃金で働く人の時給を上げると、少し上の時給で働く経験者との差が縮む。調査の自由回答にも、ベテランとの差を保つために全体の時給を上げざるを得ないという声が寄せられた。
差を保つための上乗せは法定の義務ではなく、経営判断である。だからこそ、不足分とは別の行に分けて試算する。賃金表の隣に、仕込みを1人で任せられる、繁忙時の配置を決める、閉店作業を締める、といった担当業務を並べると、差を残す相手と理由が決めやすい。全員に同額を足す案と、責任のある役割にだけ差を残す案では、増加額も採用時に示す時給も変わる。
- 不足分を月額にする最低賃金を下回る人ごとに、時間額の差×月の労働時間を積み上げる
- 既存スタッフとの差を決める役割ごとに差を残すかを決め、上乗せ分を別に足す
- 作業量から勤務時間を見直す時間帯ごとの作業量と配置を並べ、減らせる時間と減らせない時間を分ける
- 残りを価格で回収する必要な追加売上を値上げ額で割り、販売数が減った場合も並べる
シフトは人数でなく作業量から組み直す
勤務時間を見直すなら、配置人数から削るのではなく、時間帯ごとの作業量から必要な人員を出す。J-Net21・人員計画の書き方は、調理や接客などの業務とポジションを整理し、業務量と時間から勤務時間を計画する方法を示す。同じ2人体制でも、仕込みと提供が重なる時間と、片付けだけの時間では必要な人数が違う。開店前の準備と閉店後の作業も同じ表に入れると、営業中の売上だけでは見えない時間が拾える。
省力化の機器を検討する場合、農林水産省・飲食店の自動化・省力化ガイドブックが、技術やツールの概算費用、業務項目別の取り組み、費用対効果の考え方を載せている。候補の作業に毎月何時間かけているかを先に測れば、機器の費用と比べられる。ただし、浮いた時間がそのまま人件費の削減になるのは、その時間のシフトを実際に減らせる場合に限られる。
値上げは販売数が減った場合の採算まで並べる
不足分と上乗せを足し、勤務時間で吸収できない残りが、価格で回収する金額になる。冒頭の例では、税抜50円の値上げで月560食の販売が要る。これは販売数が変わらない場合の算術であり、値上げ後の販売予測ではない。
値上げ後に販売数が減れば、追加売上は計算より小さくなり、食材費も変わる。候補の商品ごとに、同じ期間の販売数、売上、食材費を並べ、販売数が1割減った場合の採算も置いておくと、値上げ幅を決めやすい。税抜価格で採算を計算し、客が見る税込価格とは分けて扱う。
判断を分けるのは、最低賃金を下回る人の時間数、差を保つ役割の範囲、減らせる勤務時間、値上げしても販売数を保てる商品の4つである。発効日が11月15日以降の佐賀・京都・岩手・熊本・沖縄の店は、発効日の前にシフトと価格表を新しい額で組み直しておく。11月2日までに発効する地域の店は、改定後1〜2か月の実際の支払時間と販売数で試算を照合し、価格で回収する額と勤務時間で吸収する額の配分を見直せる。
出典
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