家賃の減額交渉、売上減は根拠にならない。契約と相場で材料をそろえる
売上減で家賃が重くなっても、それだけでは減額の根拠にならない。法律が考慮するのは近隣の同種物件との差や経済事情で、定期借家の特約は請求自体を封じることもある。比較物件、採算、契約の経緯を分けて交渉に臨む方法を示す。

売上が落ちて家賃が重くなっても、それだけで家賃を下げてもらえる根拠にはならない。法律が減額の理由として見るのは、税などの負担、経済事情の変動、近隣の同種の建物の賃料との差で、定期借家で減額を排除する特約を結んでいれば、契約期間中は請求そのものができない場合もある。交渉の前に、近隣の比較物件、店の採算、契約の経緯を別々の材料としてそろえておくと、何を根拠に減額を求めるのかを貸主に筋道立てて示せる。
法律が見るのは経済事情の変化と近隣との賃料差
借地借家法32条が賃料の増減を請求できるとするのは、建物の賃料が不相当になったときだ。理由として挙げるのは、税などの負担の増減、土地や建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近隣の同種の建物の賃料との比較の3つである。借りている側の売上は、この要件に入っていない。減額を求める根拠は、こうした事情の変化と、近隣の似た物件と比べた今の賃料の差になる。
ただし、近隣の相場まで必ず下がるわけではない。不動産流通推進センター「借主からの家賃の減額請求の方法」の2009年10月の相談解説は、家賃が相当かどうかは過去の経緯なども含めた事情を総合して判断されると説明している。
長く借りている物件の賃料は、直近に合意した時点以降の経済事情の変化に加え、契約を結んだ経緯も合わせて判断される。国土交通省「継続賃料にかかる鑑定評価の方法等の検討(第2部)」も、継続中の賃料を直近合意時点からの事情の変化と、契約締結の経緯や契約内容を踏まえて求める考え方を示している。募集物件の単価との差を、そのまま求める減額幅にしない方がよい。
貸主に示す材料は比較物件、採算、契約の経緯の3つ
中心になるのは比較物件の表だ。同じ相談解説の監修者コメントも、請求する側が近隣の同等物件の賃料相場を調べて示し、今の賃料が不相当だと示す作業が欠かせないとしている。説得力は件数よりも「なぜ比べられるのか」を説明できるかで決まる。階、面積、用途、駅や道路との関係、設備の引渡し状態をそろえ、賃料、共益費、保証金、工事負担を同じ表に並べる。公開されている募集賃料は成約した賃料とは限らないため、募集条件か、確かめた契約条件かを区別して書く。
店の採算表は、減額の根拠ではなく、いくらなら借り続けられるかを貸主に伝える資料として添える。家賃の売上比率は、同じ期間の家賃を売上高で割って100を掛けて出し、月額と年額、税込みと税抜きをそろえる。共益費を含めるならそのことを書き、賃料だけの比率とは分けて残す。比率だけでは支払える上限は決まらないので、原価、人件費、その他の固定費を含めた利益見通しと組み合わせる。採算表には過去の実績、現行家賃での見通し、希望家賃での見通しを同じ期間で並べ、見通しには売上と費用の前提を添える。
契約の経緯は、直近に賃料を合意した時点、その後の条件変更、特約を時系列にまとめる。3つの材料を混ぜずに並べると、貸主も何に応じればよいかを判断しやすい。
| 材料 | 示す内容 | 混ぜない情報 |
|---|---|---|
| 比較物件の表 | 階・面積・用途・立地・設備をそろえた近隣の賃料 | 募集賃料を成約賃料とみなす推定 |
| 店舗の採算表 | 現行家賃と希望家賃での利益見通し、支払える上限 | 周辺の賃料が下がったという主張 |
| 契約の経緯 | 直近に賃料を合意した時点、その後の条件変更、特約 | 希望条件を既にある権利とする理解 |
定期借家で排除特約があれば、交渉の場は再契約になる
同じ「減額しない」という条項でも、普通借家と定期借家では効き方が違う。牛島総合法律事務所「賃料の増減請求(2) 賃料改定特約」の2026年2月4日の解説によると、普通借家では減額しない特約があっても減額請求はできる。ただし、請求できることと求めた額が認められることは別で、特約を結んだ背景が判断に影響する場合もあるという。
定期借家推進協議会「定期借家Q&A」によると、定期借家では賃料増減請求権を排除する特約を結べる。一方で、賃料を当事者の協議で決めると書いただけでは、その特約として十分ではないとする。定期借家には更新がなく、続けて借りる場合は再契約になる。
普通借家
- 特約があっても減額請求はできる
- 求めた額が認められるかは別で、特約の背景も考慮される
- 更新があり、契約期間中の改定が交渉の場になる
定期借家
- 増減請求権を排除する特約を結べる
- 「協議で決める」と書いただけでは排除特約にならない
- 更新がなく、続けて借りるなら再契約が交渉の場になる
契約書に「改定」「固定」「協議」といった言葉があるだけでは、特約が効くかどうかは決まらない。契約の種類と条項の文言は、契約書を持って弁護士に見てもらう論点だ。定期借家で排除特約がある場合、交渉の中心は契約期間中の減額ではなく、再契約での賃料、期間、次の見直し条件になる。
請求は書面で届け、合意前は家賃を減らさない
- 書面で請求する内容証明郵便などで送り、貸主に届いた日を残す
- 合意までは現行の家賃を払う自分で決めた額の支払いや供託はできない
- まとまらなければ調停訴訟の前に、物件所在地の簡易裁判所へ宅地建物調停を申し立てる
- 決まった内容を書面にする額、適用開始日、対象期間、共益費、次の見直し条件
正式に減額を求めるなら、口頭ではなく書面で伝える。借地借家法32条の請求は将来に向かって効力を持つ。内容証明郵便などで送って貸主に届いた日を残しておくと、どの時点からの賃料が争点になるのかがはっきりする。
協議がまとまらない間に、店の判断だけで支払額を減らすのは避けたい。前出の不動産流通推進センターの解説によると、減額の協議が調わない間、貸主は自らが相当と認める額(通常は現行の家賃)を請求でき、借主が自分で決めた額を払ったり供託したりすることはできない。差額を払わなければ家賃の不払いとなり、契約解除が認められた裁判例もあるという。
話し合いが行き詰まった場合は、いきなり訴訟ではなく調停から始める。同解説によると、賃料の増減をめぐる事件は、訴えを起こす前にまず調停を申し立てる必要がある。東京地方裁判所「調停事件について」によると、賃料の増額・減額は宅地建物調停の対象で、原則として物件所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てる。
交渉で決まった内容は額だけで残さず、適用開始日、対象期間、共益費の扱い、次の見直し条件まで書面にする。選択肢は、希望条件で借り続ける、現行条件のまま営業計画を組み直す、移転を検討するの3つで、費用と契約上の制約がそれぞれ違う。どれを選ぶかの分かれ目は、近隣の同種物件と比べて今の賃料に差があるかと、契約が普通借家か、排除特約のある定期借家かの2点である。
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