後継者がいない飲食店、閉める前に比べる3つの承継と無料の相談先
後継者がいない飲食店には、閉店のほかに家族・従業員・第三者への承継の道がある。継ぐ人によって壁は税・買取資金・相手探しと変わる。無料の支援センターと、2026年11月6日締め切りの補助金、税制の計画提出期限を整理した。

1店舗を運営する飲食店経営者の33.3%が「自分の代での廃業・清算」を考えている。シンクロ・フードの調査(2023年)の結果だ。ただ同じ1店舗運営でも、約2割は従業員や第三者に店を引き継ぐ道を考えていた。後継者がいない店の選択肢は、閉店のほかに家族・従業員・第三者への承継の3つがある。どれを選ぶかで、税・買い取り資金・相手探しと、越えるべき壁が変わる。比べる段階から、公的な相談窓口の事業承継・引継ぎ支援センターを原則無料で使える。
誰が継ぐかで壁が変わる、税・買取資金・相手探し
承継は、継ぐ人が家族か、店の中の人か、外部の人かで3つに分かれる。中小機構の事業承継ハンドブックは、類型ごとの課題を次のように挙げている。
| 項目 | 親族内承継 | 役員・従業員承継 | 第三者への引継ぎ(M&A) |
|---|---|---|---|
| 候補になる店 | 家族に継ぐ意思のある人がいる | 任せられる役員・従業員がいる | 身内にも社内にも候補がいない |
| 株式・事業用資産の移し方 | 贈与・相続が多い | 後継者が有償で取得することが多い | 第三者に譲渡する |
| 主な課題 | 贈与税・相続税、資産の分散、債務の承継、後継者の資金力 | 経営者意識の育成、他の従業員の納得、買取資金、個人保証の引継ぎ | 早期の判断と着手、秘密保持 |
親族内承継は株式や店の資産を贈与・相続で移すため、税の負担と後継者の資金力が課題になりやすい。従業員承継では、後継者が店を買い取る資金と、現経営者の個人保証の扱いが壁になる。同ハンドブックは、保証の引継ぎに後継者の家族が反対し、承継を断念した例を挙げている。
第三者への引継ぎでは、譲る相手を見つけることと、話が固まるまで秘密を守ることが壁になる。
移行に3年以上かかる例が半数超、準備の目安は60歳頃
中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)によると、後継者を決めてから承継を終えるまでの移行期間は「3年以上を要する割合が半数を上回」る。10年以上かかる例も少なくない。同ガイドラインは、平均引退年齢が70歳前後であることから、概ね60歳頃に準備を始めるのが望ましいとしている。
第三者に譲る場合も時間がかかる。同ガイドラインは、譲り先とのマッチングに数か月から1年程度かかる見込みだとして、早めの判断を求めている。ところが、この道は飲食店の経営者にあまり知られていない。M&Aキャピタルパートナーズの調査は2024年10月、飲食店の経営者・役員122人に聞いた。M&Aによる第三者承継を「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」が54.1%、「知らない」が28.7%だった。閉店を決めてから選択肢を知ったのでは、相手探しの時間が足りなくなるおそれがある。
- 準備の必要性を認識する60歳頃を目安に、誰に店を継ぐかを考え始める
- 経営状況・課題を見える化する借入・個人保証・店の資産と、売上や利益の状況を洗い出す
- 経営改善で磨き上げる収益や仕組みを整え、継ぐ人や譲る相手から見た店の価値を高める
- 承継計画の策定/M&Aの工程親族内・従業員承継は事業承継計画を作り、第三者への引継ぎはM&Aの工程に進む
- 承継・M&Aを実行する資産の移転や経営権の移譲を行う
最初の3つのステップは、どの形で承継する場合も同じだ。継ぐ人が決まっていなくても、店の経営状況や借入・保証の状態を見える化し、経営改善で磨き上げる作業は先に進められる。この準備は、家族に継ぐ場合も第三者に譲る場合も無駄にならない。
相談は無料の支援センターへ、2025年度の第三者承継は2265件
承継の相談先として公的に用意されているのが、事業承継・引継ぎ支援センターだ。中小機構の発表(2026年5月29日)によると、47都道府県に48カ所ある。支援は原則無料で、承継の相談、事業承継診断による課題の洗い出し、承継計画の策定、譲渡先とのマッチング、経営者保証の解除に向けた専門家支援を受けられる。一部の地域では支援内容が異なり、専門家派遣には費用がかかる場合がある。
利用は増えている。同発表によると、2025年度の新規相談者数は24,030者で、2011年度の開設以来最多だった。第三者承継の成約も2,265件と過去最多になった。創業を希望する人が登録する「後継者人材バンク」の累計登録者は11,547者で、2025年度は114件が成約した。身内にも社内にも候補がいない店でも、店を継ぎたい人と出会える仕組みがある。
どの承継にするか決めていない段階でも相談でき、3つの形を比べる場として使える。
補助金は11月6日締め切り、税制は計画の提出期限が分かれ目
承継にかかる費用と税には、国の補助金と事業承継税制がある。対象と期限は次のとおりだ。
| 制度 | 対象 | 支援の内容 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 事業承継・M&A補助金(事業承継促進枠) | 5年以内に親族内承継・従業員承継などを予定している | 設備投資などに補助上限800万〜1000万円 | 16次公募は2026年11月6日まで |
| 同(専門家活用枠・売り手支援) | 他社に事業を引き継ぐ予定がある | 専門家の活用に補助上限600万円(デュー・ディリジェンス実施時は最大200万円上乗せ)。小規模事業者の売り手は最大450万円 | 16次公募は2026年11月6日まで |
| 同(廃業・再チャレンジ枠) | 承継・M&Aに伴い既存事業を廃業し、新たな取り組みに挑む | 補助上限300万円 | 16次公募は2026年11月6日まで |
| 事業承継税制(法人版・特例措置) | 非上場株式等を贈与・相続で引き継ぐ | 相続税・贈与税の納税を猶予・免除 | 特例承継計画は2027年9月30日まで提出、贈与・相続は2027年12月31日まで |
| 事業承継税制(個人版) | 個人事業者の一定の事業用資産を引き継ぐ | 相続税・贈与税の納税を猶予・免除 | 個人事業承継計画は2028年9月末まで提出 |
出典:J-Net21(中小機構)2026年9月、大阪府、愛知県の案内
J-Net21の告知(2026年9月10日)によると、補助金の16次公募は2026年10月2日から11月6日まで申請を受け付ける。補助率や要件は枠ごとに異なるため、対象になるかは公募要領と事務局で確かめる必要がある。1店舗の飲食店を第三者に譲る場合は、専門家活用枠のうち「小規模事業者の売り手」向けの支援(最大450万円)に当たる可能性がある。
事業承継税制は、親族内承継で重くなりやすい相続税・贈与税の納税を、一定の要件のもとで猶予・免除する。大阪府の案内によると、法人版は2026年4月1日の法改正で特例承継計画の提出期限が1年半延び、2027年9月30日になった。個人版は愛知県の案内によると提出期限が2028年9月末に延びた。同日が土曜日のため、同県は翌開庁日の10月2日を期限としている。適用できるかは、税理士など専門家への確認が欠かせない。
閉店か承継かの判断は、継ぐ人の当てで分かれる。家族に継ぐ意思があるなら、法人は2027年9月30日、個人事業は2028年9月末という税制の計画提出期限が判断の期日になる。任せたい従業員がいるなら、買い取り資金と個人保証の扱いを早めに話し合えるかが分かれ目だ。候補がいない場合は、閉店を決める前に支援センターへ相談し、相手探しの時間を確保できるかが条件になる。補助金を使うなら、16次公募の締め切りは2026年11月6日である。
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