出店の投資回収は売上1割減で2倍超に 公庫の記入例で試算
日本政策金融公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋)をもとに、初期投資・売上・家賃から出店の投資回収期間を試算した。基準は約32か月だが、生活費を引くと約66か月、売上1割減で約69か月に延びる。物件を決める前の判断の線も示す。

日本政策金融公庫が掲載する創業計画書の記入例(洋風居酒屋、25席)は、開業資金1,260万円に対し、軌道に乗った後の月利益を39万円と見込む。単純に割れば約32か月で回収できる計算だが、この利益は税や借入の返済元金、店主の生活費を払う前の額だ。生活費を月20万円と置くと回収は約66か月に延び、売上が1割落ちれば生活費を引く前でも約69か月と基準の2倍を超える(いずれも記入例をもとにした本誌試算)。出店の可否は、計画どおりの回収期間ではなく、売上が下振れしても賃貸借の契約期間のうちに回収できるかで判断したほうが、無理のない線を引ける。
初期投資は保証金と半年分の赤字補てんまで積む
回収期間の分子になる初期投資は、工事費や機器だけでなく、保証金と開業後の運転資金まで含めて積む。記入例の内訳は設備資金970万円と運転資金290万円だ。設備資金は店舗内外装工事500万円、厨房機器200万円、什器・備品類150万円、保証金120万円からなる。
- 初期投資を積み上げる工事・機器に加え、保証金と開業後半年程度の赤字補てん資金まで含める
- 売上を分解する客単価×席数×回転数×営業日数を、昼夜・曜日ごとに置く
- 原価と経費を引く原価・人件費・家賃・利息などを引き、月々の利益を出す
- 手元に残る額を出す利益から返済元金と店主の生活費を引き、毎月の余裕を見る
- 前提を動かして比べる売上の下振れ・家賃・坪数を変え、回収期間と利益ゼロの売上を見る
公庫の創業の手引+(飲食版)(2025年9月)は、事業開始後の運転資金として、半年程度の赤字を補てんする資金の準備を確認項目に挙げる。家賃・保証金が周辺相場と比べて妥当かも点検するよう求めている。運転資金を削れば計画上の初期投資は小さくなり回収期間も短く出るが、開業直後の赤字を埋める資金が手元に残らない。回収期間を短く見せるために運転資金を削らないことが、試算の出発点になる。
月利益39万円から返済と生活費を引くと残りは7万円
記入例の月利益39万円は、そのまま投資の回収に回せる額ではない。売上は、公庫の売上高等の計算方法についてが示す「客単価×席数×回転数」に営業日数を掛けて組む。記入例は昼を客単価900円・0.8回転、夜を4,500円とし、夜は月〜木を0.6回転、金・土を0.9回転と置く。創業当初の月売上は248万円で、軌道に乗った後は1.3倍の322万円とする。そこから原価率35%の売上原価、人件費88万円、家賃20万円などを引いた残りが39万円だ。
記入例は利益欄に、所得税等の税金や借入金の返済元金はこの利益から支払うと注記している。個人営業なら、事業主分の人件費もここに含まれる。借入は公庫700万円(元金月10万円)と父からの200万円(同2万円)で、元金だけで月12万円が出ていく。店主の生活費を月20万円と置くと、手元に残るのは月7万円にとどまる。手引も、返済財源から返済元金と家計費を引いた額を収支の見込みとして扱う。
投資全体の回収期間を見るなら、利益から生活費を引いた19万円で割るのが実態に近く、約66か月となる。資金繰りの面では、毎月7万円の余裕で売上の下振れや設備の故障を吸収できるかが問われる。
売上1割減は家賃10万円増より回収を延ばす
前提を1つずつ動かすと、回収期間を大きく延ばしたのは家賃の上昇より売上の下振れだった。下の表は、記入例の軌道後を基準に条件を変えて計算した。
色:列の中で数字が大きいほど濃い青
| ケース(仮定) | 月売上 | 月利益 | 初期投資 | 単純回収期間 |
|---|---|---|---|---|
| 記入例の軌道後(基準) | 322万円 | 39万円 | 1,260万円 | 約32か月 |
| 売上1割減 | 290万円 | 18万円 | 1,260万円 | 約69か月 |
| 家賃10万円増 | 322万円 | 29万円 | 1,260万円 | 約43か月 |
| 坪数2割減・売上維持 | 322万円 | 43万円 | 1,160万円 | 約27か月 |
| 坪数2割減・売上2割減 | 258万円 | 1万円 | 1,160万円 | 回収の見通し立たず |
出典:日本政策金融公庫「創業計画書(記入例)(洋風居酒屋)」をもとに本誌計算 月利益は税・返済元金・店主の生活費を払う前。月利益の列は多いほど濃い。売上・利益は万円未満を四捨五入
売上を動かすケースは原価率35%を据え置き、人件費88万円、家賃20万円、支払利息2万円、その他60万円の経費合計170万円は変えていない。売上が1割減っても費用は原価分しか減らないため、利益は39万円から18万円へ半分以下になる。家賃が10万円上がっても利益は29万円残り、回収は約43か月で済む。人件費をシフトで売上に合わせて動かせる店ほど、この差は縮むとみられる。
坪数を2割減らすケースは、家賃と店舗内外装工事費がそれぞれ2割下がると仮定した(家賃16万円、内外装400万円)。売上を保てれば回収は約27か月に縮むが、席数に比例して売上も2割落ちると、利益はほぼ残らない。狭い物件が有利になるのは、席を減らしても売上を保てる根拠がある場合に限られる。
外食コンサルタントの堀部太一氏はnote(2026年10月8日)で、地方都市で仕出し店を展開する年商10億円強の企業が、基準坪数を2割程度減らしても成り立つようになった例を紹介している。同氏は出店モデルの選択肢として、坪数を小さくして初期投資を下げ売上を維持する道と、坪数はそのままで基準売上を上げる道を挙げる。仕出し店は席数で売上が決まらない業態で、席で売上を立てる店がこの道を選ぶなら、予約や持ち帰りなど席に頼らない売上をどこまで見込めるかが分かれ目になる。
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