小さな飲食店のHACCP記録、「否」を付けた日に何を書くか
小規模な飲食店のHACCP記録は、良・否を付けるだけでは異常時の処置を示せない。一般飲食店向け手引書を基に、料理ごとに異常時の対応を決め、否の日の内容と処置を残し、週・月の確認で計画に戻す方法を示す。

厚生労働省は2026年6月5日、小規模な一般飲食店向けのHACCP衛生管理記録アプリを公開した。同省は、記録の負担が小規模店の課題だったと説明している。ただ、紙でもアプリでも、記録が店を守れるかは「否」を付けた日に何を書いたかで決まる。良が並ぶだけの記録では、異常が起きた日にどう処置したかを、保健所にも従業員にも示せないからだ。押さえるのは、料理ごとに異常時の対応を先に決めること、否の日に内容と処置を残すこと、週と月の確認で同じ異常を計画に戻すことの3点である。
料理は温度の扱いで分け、異常時の対応を先に決める
記録の質は、日々の記入より前の計画で決まる。厚生労働省のHACCPの解説によると、飲食店営業や喫茶店営業を行う者は小規模営業者等に含まれ、同省が内容を確かめた業界団体の手引書に沿って衛生管理を行える。HACCPに沿った衛生管理は2021年6月1日に完全施行されている。
一般飲食店の場合、使う手引書は日本食品衛生協会の小規模な一般飲食店事業者向け手引書だ。従業員が数名程度の店を想定し、計画を「一般的な衛生管理」と「重要管理」の2つに分ける。一般的な衛生管理は、原材料の受入れ、冷蔵・冷凍庫の温度、器具やトイレの洗浄・消毒、従業員の健康管理、手洗いなど、店全体に共通する項目だ。
重要管理では、メニューを温度の扱いで分け、区分ごとにチェック方法と「問題があったとき」の対応を書く。同手引書の記載例では、カレーやスープを2時間以内に20℃以下まで冷やせなかった場合は提供しないとしている。
| 区分 | メニュー例 | 問題があったとき(例) |
|---|---|---|
| 非加熱(冷たいまま提供) | 刺身、冷奴 | 冷たくなければ提供しないか、加熱用に回す |
| 加熱(熱いまま提供) | ハンバーグ、焼き鳥 | 加熱を延長するか、提供しない |
| 加熱後に高温保管 | 唐揚げ、ライス | 保管器の温度が下がったまま長時間たてば提供しない |
| 加熱後冷却・再加熱 | カレー、スープ | 2時間以内に20℃以下まで冷やせなければ提供しない |
| 加熱後冷却(冷たいまま) | ポテトサラダ | 冷却が遅れたら提供しない |
この欄を先に埋めておけば、異常が起きた日に従業員が迷わず処置でき、記録にも何をしたかが残る。新メニューを加えるときは、どの区分に当たるかと、問題があったときの対応を同時に決めることになる。
「否」の日は、起きたこと・処置・確認者を残す
日々の記録で差が出るのは、否を付けた日だ。同手引書は、1日の最後に結果を記録し、問題があった場合は否に○を付けて、その内容や対処したことを書くよう示している。確認の時刻以外に問題が起きた場合も、特記事項欄に対処内容を書く。
記載例には、朝の受入れで小麦粉の包装が1袋破れていたため返品し、午後に再納品を受けたという記録がある。冷蔵・冷凍庫の温度に異常があった場合の対応例は、原因を確かめて設定温度を調整し、故障なら修理を頼むことだ。
良・否だけの記録
- 否に○があるが、何が起きたかがわからない
- 処置したのか、そのまま出したのかが残らない
- 店主が後から適否を判断できない
否の後まで残した記録
- 4/1朝 小麦粉の包装が1袋破れていた
- 返品し、午後に再納品を受けた
- 週1回の確認で店主が処置の適否を書き、サインする
仙台市が公開する様式も、一般的な衛生管理の実施記録と重要管理の実施記録の両方に、良・否の欄とは別に特記事項と確認者の欄を設けている。処置を済ませたからといって否を良に書き換えれば、同じ異常が何度起きたかを後から数えられなくなる。
週1回と月1回の確認で、繰り返す異常を計画に戻す
記録は、見返して計画を直すときに価値を持つ。同手引書は、可能であれば日々のチェックをした人とは別の人、たとえば店主が週に1度記録を確かめるとしている。見るのは記録の抜けと、問題があったときの処置が適切だったかで、その評価を特記事項に書き、確認者欄にサインする。
さらに1カ月などの間隔で振り返り、否が多かった項目やクレームを洗い出す。同じ問題が繰り返し起きているなら、同じ原因が考えられるため対応を検討する。メニュー、原材料、納入業者、設備・器具が変わったときも、計画を見直す契機になる。
- 毎日:結果と異常を書く1日の最後に良・否を付け、否の日は内容と処置を特記事項に書く
- 週1回:別の人が確かめる記録の抜けと処置の適否を見て、評価とサインを残す
- 月1回:繰り返しを探す否が多い項目やクレームから、同じ原因の問題を洗い出す
- 変更時:計画を直すメニュー、原材料、納入業者、設備・器具が変わったら計画を見直す
同手引書は、一連の記録を1年間程度保管し、保健所の食品衛生監視員から提示を求められたら速やかに応じるよう示している。紙でも端末でも、特定の日の異常と処置をすぐ取り出せる状態にしておく必要がある。
紙かアプリかは、店主が異常の記録を見返せるかで選ぶ
厚生労働省の2026年6月の発表によると、公式アプリは一般飲食店の手引書に対応し、スマートフォンやタブレットで衛生管理計画、日々の実施記録、毎月の振り返りを扱える。日々の記入の手間を減らす手段が1つ増えた形だ。
選ぶ基準は、記入のしやすさだけではない。週1回の確認で店主が否の日と処置を見返せるか、月1回の振り返りで繰り返す異常を数えられるかで比べたい。新メニューの追加や仕入先の変更が予定されている店は、そのタイミングで重要管理の「問題があったとき」の欄を見直し、否の日に何を書くかも同時に決め直すのが現実的な選択肢だ。自店の業態に合う手引書や記録方法は、管轄の保健所に相談できる。
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